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2017/12/07/(木) 西村望と西村寿行

みなさん、1970年代から80年代を中心にご活躍されたベストセラー作家、西村望氏と西村寿行氏を覚えていらっしゃいますか?

実は、お二人はご兄弟で、しかも「男木島」のご出身なのです。

お二人の作品は純文学ではなく、いわゆる大衆小説に分類されるかもしれません。また、芸術や芸能の世界にまでモラルが要求される今の風潮からすると、かなり過激にみえるかもしれません。
しかし、いずれも、人間の本質や生きものとして逃れられない性(さが)を冷徹な目と温かい心で描き切った素晴らしい作品ばかりです。

お二人が幼少期を過ごした戦前の男木島での暮らしの風景を想像しながら、もう一度、お二人の作品群を読みかえしてみてはいかがでしょうか。

 

西村望について

望氏は、1926年(大正15年)に男木島で生まれました。
父親の仕事の関係で、少年時代から満州にわたりましたが、日本に戻ってから新聞記者やルポライターとして活動し、観光ガイドやノンフィクションものなどを多数ご執筆されました。そして1978年に処女作「鬼畜」を発表し、52歳で小説家としてのデビューを果たしました。
犬死にせしもの
80年の「薄化粧」、81年の「丑三つの村」、88年の「刃差しの街」で、三度、直木賞候補となりました。

81年の「丑三つの村」は、戦時下で実際に発生した大量殺人事件を題材とした作品で、同氏の大ヒット作となり、松竹系で83年に映画化(監督:田中 登、主演:古尾谷雅人)もされました。

また、82年に発表した「犬死にせしものの墓碑銘」も、同じく松竹系で86年に映画化(題名:犬死にせしもの、監督:井筒和幸、主演:真田博之・佐藤浩市・安田成美)されています。
この作品は、終戦直後の混乱期に跋扈する瀬戸内海の海賊をモチーフとしており、望氏の男木島への想いも感じとれます。

デビュー後、しばらくは現代の犯罪小説が中心でしたが、90年代に入り、江戸を舞台とした捕物帳などを中心に執筆されるようになりました。

西村寿行について

寿行氏は1930年(昭和5年)に男木島で生まれました。
小説家としてのデビューは兄の望氏よりも早く、1969年、39歳で発表した動物小説「犬鷲」が第35回オール讀物新人賞で佳作に入選し、その歩みが始まります。
1973年には自身初の長編もの「瀬戸内殺人海流」を発表して注目を集めます。74年には社会派のサスペンス小説「君よ憤怒の河を渉れ」を発表して大ヒットとなります。この小説は76年に松竹系で映画化(監督:佐藤純彌、主演:高倉健)され、国内はもちろんのこと、海外でも上映されて一大ブームとなりました。
君よ憤怒の河を渉れ化石の荒野犬笛黄金の犬
75年に発表した「化石の荒野」は82年に東映系で映画化(監督:長谷部安春、主演:渡瀬恒彦)され、76年に発表した「犬笛」は78年に東宝系で映画化(監督:中島貞夫、主演:菅原文太)されました。

寿行氏の作風は、動物小説、ハードボイルドなアクション小説、社会派小説などかなり幅が広く、いずれの作品も読む者を惹きつけてやみません。
1977年から1978年にかけて週刊誌上で発表された「黄金の犬」は、猟犬の帰巣本能をテーマとした動物小説に汚職事件や殺人事件といったサスペンス的要素も加わった傑作で、1979年に徳間書店の創立25周年記念の大作として映画化(監督:山根成之、主演:鶴田浩二、島田陽子)され、翌80年には日本テレビ系列で全9回のドラマ化(出演:長谷川真砂美、天田俊明、夏木陽介)もされるなど、一大ブームとなりました。

80年代に入ってからもヒット作は続き、日本を代表する大作家としての地位を確立されました。
残念ながら、2007年8月23日、76歳で病のためご逝去されました。

それから10年後の2017年、世界的な大ヒット映画「男たちの挽歌」で知られる香港の映画監督ジョン・ウー氏が、映画「君よ憤怒の河を渉れ」のリメイク版「MANHUNT(追補)」を製作し、第74回ヴェネツィア国際映画祭に出品しました。日本でも「マンハント」という邦題で2018年2月から全国公開されます。この映画については稿を改めますが、主演は福山雅治さんと中国の人気俳優チャン・ハンユーさんの豪華ダブルキャストで、公開前から大きな話題となっています。

寿行氏の残した作品は、今もなお世界中の人々の心に影響を与え続けているのです。